01.01.09.


ソムリエ世界一の原点
ワインは自分流が楽しい

田崎真也 著


発行:講談社+α文庫


2000年9月20日第1刷発行
 

定価:640円+税

 ソムリエとは、「ワインの外観、香り、味わいを“言葉”に置き換えてデータ化し、自分の頭の中の図書館に入れて、情報処理を行う」と田崎真也ソムリエは言う。
・・・・
目からウロコの驚嘆。そして、納得した。プロとは、こんなものだろう

 空港に行くと、もう儀式のようになっている行動がある。チェックインを済ませて搭乗口に向かうと、通路かゲート前にある売店に立ち寄る。そこでまず、書棚を物色する。週刊誌の類のほかに、観光地なら写真集や郷土史、ミニコミ誌なども並んでいる。大阪空港なら圧倒的にビジネスマン向けのノウハウ本が多い。12月7日の朝、大阪空港の売店で見つけたのが本書。
 もっとも、その後、同じく儀式のようになっている生ビールを求め、喫煙コーナーで一服、二服。間もなくアナウンスがあって、ボーディングブリッジを渡って席へ。 20〜30ページも繰らないうちに、眠りに落ちてしまった。

 再度手にしたのは、1月6日。出かけようといつものバックをあらためたら、「読んでよ」とばかりにポロリと落ちてきた。購入したのが、もう4日も後なら、日本酒の書は手にとっても、ワインには食指が動かなかっただろうなぁ (忘れもしない2000年12月10日、素晴らしい酒に巡りあったもので・・・・その話題はまたの機会に) --などと思いながら、持って出た。もちろん、この日は書棚は抜いて、まずカウンターへ。ビール!

 読み進む中で、ンッ!?と思って、あらためて見返しを繰り、驚いた。田崎氏は1958年東京生まれ。私と同い年。氏は、19歳でフランスにわたり、ソムリエ修業のため3年間滞在。1995年に世界最優秀ソムリエに。99年にはフランス農事功労賞シュバリエ賞を受賞。当コラムの前項にも挙げたように、著書多数。わたしゃ、何をして生きてきたのだろう----そう、我が人生を振り返ってしまった。

 あらためて見返しを繰ったのは、「序章」の冒頭の一文。
 私とワインとの出会い−それはまだ私が中学生だった頃、あの、サントリーの「赤玉ポートワイン」を飲んだのが初めてだった。“あの”と言っても、若い世代にはピンとこないかもしれないが、これは1960年代に一世を風靡した、日本の食卓文化におけるワインの夜明け的な存在で、それを象徴するかのごとく、ラベルに日の出のような真っ赤な玉が描かれた、極甘口の赤ワインだった。
 友達が何人か私の家に集まったとき、たまたまこれを見つけて「ちょっと飲んでみようか」ということで開けてみた。初めはなめてみるだけのつもりだったが、ひと口飲んでみると、これが意外やおいしくて、ついついグビグビ飲んでしまって、翌日の夕方まで倒れていたのを覚えている。

 ここまで読んで、もしや同世代ではと思ったのだ。私にも、よく似た“覚え”があったから。 しかし、同じ58年組とは----。

 しかし経歴がふるっている。高校を中退して、静岡県清水市の国立海員学校へ。夏休みのバイトで伊豆・新島のスナックを任されたのがきっかけで、中退して割烹の住込み見習いに。挫折して、レストランでコックの見習。ウエイターに憧れ、イタリア&フランス料理のカジュアルなレストランでサービス初体験。そこで、ワインを売ってみようと思い立ち、実績をあげる。サービスの面白さに目覚め、店を幾つか変わり、その間に料理のサービス法やワイン、チーズと格闘。フランスに渡る心を決め、昼間は結婚式場、夜はバー、そのまま泊まってホテルで朝食のサービスと働き通しに働いて100万円(!)を作ったという。19歳の時!

 本書では、各章の前半にこうした高校時代から今日までの田崎氏の“経歴”が記され、エピソードと重なるように、「ソムリエにとっての基本姿勢」「ワインの生態」「赤・白・ロゼ、味わいの違い」「赤ワインの酸味を和らげる工夫」「優れたワインを生む土壌の条件」「人間にしかできな香りや味わいの分析」などなど、ワインそのもの、ワインの楽しみ方など、実にさまざまな情報が網羅されている。

 それらは10代の頃から、客の好みを知るためにブリヤ・サヴァランシの『美味礼賛』を読んだように、調理する側からサービスする側に移っていくそれぞれにまず書物を読み、金を貯め女友達を誘ってフルコースを食べに通い、飲めないワインとチーズをケースで購入して味わい試し、ついには本場にまで飛んでいった行動力と努力の賜物。それが、たかが文庫本に溢れるほど盛り付けられている。こりゃもったいない、と心底思えるほどに。

 はてさて、またまた長口舌。嬉しくなると、すぐこれだ(反省)。でも、ワインって美味しいなぁ−とか、ワインをもっと楽しみたいなぁ−とか思う人、読んでみるといいよ。ワインそのものや食文化だけでなく、自らの仕事、そして人間にまっすぐに向き合っている人の言葉に出会えるから。至福。

 当ページの冒頭に掲げておいた、ソムリエの仕事の要諦。それは、こう続く。
 逆に、ワインをぽんと出されてそれが何かと問われたら、外観、香り、味というステップをひとつずつ踏んで、経験によって蓄積されたデータ・ベース(つまり自分の頭の中)を検索していけばいい。
 そしてそれは、単にコメントし薀蓄を垂れるためではないと、こう続ける。
 最近、ソムリエの中にもワインを表現することについて、その意味をよく理解せずに色や香りや味わいを、人のわからないような用語を使ってコメントする人がいる。しかし、テイスティングは、コメントするために行うのではなく、あくまでも分析した結果を記憶し、表現するのであって、その結果、このワインをどう楽しむべきかを考えるのが最も重要な目的なのである。(略)
 ソムリエがテイスティングする以上は、「このワインは、どのような温度で、どのようなグラスを使い、どのような料理と合わせると楽しめるか」というコメントを最後に付け加えなければならないのである。

 本書を読み終わった夜、南の島の祝宴では御婦人用にと、ほんのり甘い「白玉」ワインが用意されていた。「美味しい」 (^o^) とグラスを重ねる1960年代に青春を謳歌した御婦人さん方を前に、何だかとっても嬉しくなった。黒糖焼酎が辛く感じられた。

 その夜、深夜スーパーの棚から取り上げたのはフランスワインの白と赤。肴は、カマンベールチーズとフランスパン。このごろずっと、チリとイタリアだったのに--、田崎マジックかなぁ (単に影響されやすいだけやんとの、keyの声も聞こえてきたけれど)。

 きょう? いまは勿論、イタリアのCHIANTI 。ブルーチーズをかじりながら、トクトク、グビグビ。文字通り、きょうも“ほろ酔い”です v^_^;

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