00.10.11.



      
 
今夜から日本酒がうまくなる

  NHKラジオ深夜便
 三浦行義


発行:たる出版


1998年11月3日第一刷発行
 

定価:1,000円+税

タイトルに偽りあり! ―だって、いま飲んでるお酒が、まずーくなったもの……。なかなか飲めないよなぁ、こんなレベルでは(トホホ)

 日本酒が嫌いでした、私。当コラムの「扉」に記したように、出が南西諸島で焼酎育ちだったから…、というのは、まぁ、いわば表向きの理由でして。

 元凶は、あの日。大学に入学した春、2年間ほど“片思い”していた彼女に、入学式直後のオリエンテーリングの帰り道、思い切って、清水の舞台から飛び降りるような思いで、「茶、飲まへん?」と言ってみたりして。ところが、「イヤ!」だったか、「忙しいから」だったか、ともあれ、とにかく、すげなく断られてしまって……。

 淡〜い、片思いの期間が長かっただけに、当方のショックは相当なもので(向こうは、まったく、ちっとも、何とも思っていなかったようなのですが…)、飲みました! 5合か6合か、はたまた7合ほど……? 先輩の部屋に寄って一升瓶をかっさらい、グビグビ、ゴクゴク。貰い物の巻き寿司か何かほおばりながら。

 ………で、三日酔い。喉の渇きに目を開ければ、顔中、パリパリのげろパック。目も開けられず、鼻もベットリ、パリパリ…。よくまぁ、窒息しなかったものだと、酔眼もうろう、ひたすら感心。で……、早春の早朝、振るえながらシャワーを浴びて。朝、親友(キタチュー)の肩につかまりながら辿った親里大路の銀杏並木の、いやはや、遠かったこと。冷や汗、吐き気、千鳥足…。

 ところが、悲劇は続いた。 ようよう辿り付いた学科会「成人会」の新人歓迎オリエンテーションの席。隣は、こともあろうに、あの娘。座るなり、「お酒くさいわねー (-_-#) 」なんていわれて。
 居並ぶ教授陣と諸先輩方の前、肩をかり、ようよう自己紹介は済ませたものの、そこまで。ランチを見るなり「ウッ」とこみあげて、中座。銀杏並木につかまりながら、はうようにして帰ったのでありました。……で、きっちり三日酔い。それから三日間、寝て、寝て、寝倒しました、私。起きると、天井が廻り、ウップとくるんだもの。まぁ、初めての失恋。ウブだったのです私(ホントよ)。

 ………で、目が覚めると、日本酒嫌いになっておりました、私。あの匂いを嗅ぐだけで、ウッ! 無理に勧められて口に含めば、ウップ!―続いて頭が、ガンガン!。ウップ!ガンガン!、ウップ!ガンガン!を繰り返して、まったくちっとも、日本酒の飲めない体になってしまいました(いやー、三日酔いはキツイ!)。

 ――で、その苦手のはずの日本酒に開眼(そんなオーバーなものかぁ??)したのが、かの傑作『夏子の酒』。読むうちにグングンと引き込まれて、「あー、お酒が飲みたい! 旨い日本酒を口に含んでみたい!」…なんて思ったりして。

 それからですわ、飲めるようになったのが。その時、たまたま飲んだ吟醸酒がよかったのか、「旨い酒は旨い!」と開眼したりしちゃって(もちろん、げろパックはありませんから、ちゃんと見えてま)。

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 アハッ、またまた前置きが、長くなってしまった。ゴメンなさい。

 で、その娘(あらため人)が、卒業後幾歳、隣家に引っ越してきた(こっちが、たまたま隣家に引越したのかなぁ)。もう、あまり、ちっともドキドキしなかったけどね(夏の夜の夢かなぁ)。

 アハッ、またまた前置きが、長くなってしまった。ゴメンなさい。書の紹介しなくっちゃね。

 酒は生き物である。それが読後感。著者は、元NHKアナウンサー。TV、ラジオニュースのほか「きょうの料理」「きょうの健康」などを担当。雑誌や新聞に、郷土料理や地酒について執筆。本書は阪神淡路大震災の半年後から、「こういう時こそ、本物の酒を探る機会」と、平成7年6月から同10年3月までインタービュー、放送した「ラジオ深夜便」の採録版。

  古本屋で手にし「お酒の味を科学してみれば―新家龍・神戸大学名誉教授」「純米酒へのこだわり―清酒コーディネーター・酒の蔵たけなか代表・竹中清則」あたりまでは、ナルホドおもしろかったが、その後、だんだんつまらなくなってきた。だって、自分の飲んでいる酒が、みすぼらしく、つまらなく思えてきたんだもの。高度で専門的で、かつお金がないとね。

 ところが、「お酒の味は米次第―酒造コンサルタント技術士・永谷正治」さんあたりから、元気になった。オモシロイ!

 日本酒を造る米は、ご飯にする米とは違う品種で「酒造好適米」といわれる品種群。いずれも、飯米と違って、たんぱく質が少なく、中心のデンプン質が多い。酒を醸すときには、外側のタンパク部分を削り、中央のデンプン質を残す。多く研げば研ぐほど、良質の酒になる。精米度合い何%と表示されるが、研ぎ上げられた米は、真珠のようにまん丸で美しい。

 その酒造好適米の中でも、最適といわれる「山田錦」をめぐって、永谷さんはこう言う。
「米というのは稲が倒れるまで肥料をやると収量が上がる。でも病気になりやすい、虫がつきやすいけれど不味い米が余計にできるんです。米というのは、多肥料で多収穫をすると不味くなるんですよ」
「特に山田錦は多肥料では元々できないのです。何故かと言うと山田錦は古い品種で背丈が高い。しかも穂が長く、籾もたくさんつく。背が高くて頭が重いから当然ひっくり返りますね」
「それに古い品種だから穂が一斉に実らないんですよ。先の方から熟してだんだん根元のほうにくるんです。で、熟しちゃうとポロポロおちるんです。脱粒といいますね。だから当然歩留まりが悪いわけです」
「山田錦も雄町もそういう欠点が多い稲だから、収量を上げない作り方をさせることなんです。そのためには、株は張らさない。肥料も少しにする。ミスミス減収させるわけです。すると、稲は健康に育つ。人間もそうでしょうね。飽食しては病気になる」

 うーん、実に薀蓄のある言葉ではないか。環境を整え、夜食をつくり、「いい大学に行ってよ」なんて不相応な期待を抱いて、お尻を叩いているうちに、子どもは捻じ曲がったりする。衣食住----、多少は不自由をさせても、自分自身で根を張り、実をつけさせるように、我慢して見守ってもいいかもね。

 続く章は、何と造り酒屋さんが、米づくりもやってるという話。タイトルも「手作りの酒は田圃から―秋鹿酒造有限会社社長・奥佳明、常務・奥裕明」さん。米をいかに研ぐか、どう醸すかという技術論の前に、まず素材が大事というのは、当たり前といえば当たり前のことだよね。

「山田錦の栽培にあたって、普通の飯米と根本的に違う方法をとったのは、苗作りですね。まず種籾を播く播種量を少なくしました」「普通の米飯ですと、30cmと60cmの箱に120〜150g播きますが、私は70gしか播かない」
「もう一点は、育苗発生器を使わず天日で発芽させるんです」「日数は1週間から10日間かかってもですね。1日か2日の間に発芽する育苗発生器とではぜんぜん違うのです」「普通、育苗器を使うと、まず芽が先に出る」「そうして、しばらくしてから根が出る。ところが、1週間から10日間かけて天日で発芽させる方法だと、まず根が出て、それから芽が出るんです。それが本来普通のこと」「どんな作物でも根が出てから芽が出るんです。ところが、芽を先にむりやり出させることによって非常にのびが早くなるんですね。これだと第一関節が長くなる。それが長ければ長いほど茎がのびて倒れやすい」「苗作りの時点で、もう稲の一生は決まってしまうんです。つまり一昼夜のうちにその稲の一生は決まってしまっているわけなんです」

 そして、肥料を少なく。水遣りにも配慮を。
「水のやり方も大事です。それは、できるだけやらないということ。やる場合も午前中にやってしまう」「極力苗を痛めつけて、枯れる寸前に水をやるという方法です。それだと苗はあまり伸びない(すると根っこのほうが水を求めて深く張る)」

 幼稚園の“お受験”に始まり、肥料をやり、根腐れするほどに水をやり----。構いすぎの過保護が、生きる力を削ぎ取っているのではないか!?
 大学も出、就職した息子が風邪をひいた時に、駆けつけて体を拭くやらなにやら、数日間も看護している母がいたという。そして、それを当たり前のように受け容れている息子がいた―と、見舞いに行った知人にそんな話を聞いて、唖然とした。成人した息子の肌を、いそいそと拭く母--、キモチワルイ。その根底にある、依存、盲愛。

 教訓:母の盲愛は、口だけ達者でどうしようもない若者をつくる。振り切ろうと、格闘する息子をこそ応援したいね。「母源病」という言葉は、いまこそ新しいのかもしれない。もちろん、そうさせる父親=男の側にも問題は大きいが---

 とまぁ、そんな諸々を思い浮かべつつ飲んでいたら、やっぱり不味いわなぁ。お酒。憂きことはサラリと忘れて、酔っ払いちゃいましょ。

 

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