00.01.16.



 酒飲みに献げる本
酒の醍醐味を謳う
28の小説・エッセイ

山本容朗 編


発行:実業之日本社

昭和54年10月25日
 初版発行
昭和55年2月20日
 三版発行

定価:980円(当時)
酒とうまくつきあいたい―と思うようになって10数年。
さて、どうかと振り返ってみれば、できているようで、いないようで。

 裏表紙の内側に、59年3月26日の印を見つけた。ちょうど、現在の仕事に就いた春。“酒と大人のつきあいをしたい”というのが、多分この本を手にした動機だったように思う。

「二十歳になって酒、煙草を始めるのはバカだ」とよく言われる。まさにそのバカが私で、煙草は二十歳を過ぎて吸うようになった。酒は少し早く、高校卒業の直前。大学に入ると、やたらと酒の強い先輩や、酒乱に近い人が周囲にいて、入学式直後から3日酔いの洗礼を受けた。
 以来、コンパでは土鍋の蓋で焼酎を酌み交わしたり、丼鉢で特性カクテルを作ったり…。四畳半一間の下宿には、サントリーホワイトの空き瓶が、いつもゴロゴロしていた。水道は部屋の外、階段下の屋外で、冷蔵庫なんて気の利いた物はなかったから、夏冬問わずストレートで飲んでいたと思う。勤めてからもウイスキーは常にオンザロックで、水割りを飲むようになったのは30代も半ばからだったと思う。

 そんな飲み方をしていても、学生時分から酒の上での失敗というのはあまりない。それは、酒に呑まれたくないとの強迫(脅迫?)観念 が染み付いているからだろうと思う。何しろ、生まれ育ったのが、黒糖焼酎の島。「人口比率では、アル中の数が日本一らしい…」といった事を、よく聞いたもの。さけ(セェ)といえば焼酎で、いわゆる酒は「清酒」「日本酒」と呼んでいた。しかも度数がウイスキー並。正月も祭も、もちろん出てくるのはセェ。夜を徹して踊る八月踊り(盆踊り)では、セェを水割りしたのがヤカンで回ってきたりする。
  だから神様にお供えするんだって、もちろんセェ。お下がりは人間がいただくのだから、誰も喜ばない日本酒など供えるわけがない。だから、島の神様はセェノミ、だから本土の神様より酒に強い!

ああ、千鳥足で話が逸れてしまった(反省! 本題に戻そう)。
…という環境だったから、幼いころから身の周りには、“反面教師”がゴロゴロ、うじゃうじゃ。呑んで暴れる、からむ、泣く、口説く、居座る…。 「あー、あんな風にはなりたくないなー」「セェゴレ(酔っ払い)って、見苦しいなあ」と、しっかりとインプリンティングされたのだ。
 そうなると「酒は呑まない」 というのがフツウだよねぇ。ところが好きスキ大好き…というのは、たぶんシマッチュ(島人)として遺伝子の中に組み込まれているのか、育った水と空気のせいか…。島では祝い事があると(これがやたらと多い)、セェが回り、サンシン(三線=蛇皮線)が鳴って、唄と踊りが始まる。嬉しい時も、悲しい時も、常に酒と唄がワンセット。酒好きでカラオケ好きという“わたし”は、まさに島の風土が育んだものと自覚する今日このごろ(いけない、また話が限りなく逸れていく…)ではある。

 と、本の紹介そっちのけで話がコロコロ転がってしまったが、本書は酒にちなんだ6編の小説と22の随筆からなる。いずれもそうそうたる顔ぶれで、太宰治「酒の追憶」、笹沢佐保「雪原での酒」、鈴木健二「真昼の酒」、奥野信太郎「酒場今昔記」、半村良「酒」、山口瞳「酒場のエチケット」、鮎川哲也「深夜の祝杯」、大野晋「好きなお酒」、田辺聖子「酒徒とのつき合い」、北杜夫「酒をやめさせる薬」、三浦哲郎「旅は酒袋を提げて」……
  まさに酒、サケ、さけのオンパレード。これらは、大きく三つの群に分けられており、Tは酔態、Uは知識、Vが心得といったところ。それぞれに味わいのある話が納められている。

 つまり、 古き良き時代(?) の酒飲みの入門書かな。


 最近、酒に弱くなった。酔態をさらすまい、と思ってきたはずだが、近頃…。回りが早くなったのをきちんと自覚していないからか、振り返ればかなり無防備になっているなと感ずる。暴れる、からむの醜態(「醜い」とは、酒乱のことかな)はないにせよ、ブレーキが壊れたように饒舌になる(素面の時からそうだって? これは失礼)。
  呑んでもフツウでいたい!? そんな呑み方はおもしろくない―とH先輩あたりには叱られそうだが、そろそろ、呑み方を考えるころかな、とも思う。
 しかし、20歳代で読んだ本を読み返してみると、また違った味わいがある。それぞれの筆者の年齢に近づいてみて、当時ではたぶん見えていなかった風景が見えるように思うのかもしれない。熱燗でもつけて、じっくりと再度読み直してみようと思う。

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