| 00.06.26. | ||
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香りの世界をさぐる 中村祥二 著 |
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――この本は、香りの世界に係わって30年の一人の研究者として、香りをまず情報ととらえ、それが人の心の動きにどんな役割を果たしているのかを考えながら、折に触れて感じたことを書いた随筆である。香りやにおいをめぐる新しい心の文化を模索しようという人たちのために、何らかの意味をもてば、というのが私の願いである。――本書「おわりに」より 「随筆」と呼ぶには、あまりに専門的で刺激的な情報に満ちた一書である。今回を合わせて、もう4度は読んだと思う。古い付箋のくすんだ色合いが、それを示している。 著者は「1935年生まれ。東京大学農学部農芸化学科卒。資生堂で30年にわたり、香水、化粧品の香料の開発に従事」と記されている。最近テレビ等で知られるようになったパーヒューマー(調香師)である。訓練と天性のセンスで、常人の100倍は鼻が効くとかで、意思によって“感度”を調節できるという。それだけに、芳醇、多彩、味わい深い情報が溢れんばかりに盛られている。 当初、先に『人はなぜ匂いにこだわるのか―知らなかった匂いの不思議』( 村山卓也著)を「あそび」のコーナーに挙げただけに、どちらに挙げようかと迷ったけれど、♂と♀の話に興味深いものが少なくなかったことと、あそびのコーナーに5話挙げられている関係から「男と女」のコーナーに挙げることにした。 香り、匂い・・・・命に直結した感覚。ガスの臭い、青酸の香、腐敗した食品の臭い・・・・。口の上に鼻があるのは、生命を脅かす食物を検知するためだという。鼻は耳と同じように、四六時中開かれていて、物の焦げる臭いなどを感じ取ってくれる。 さて、男と女。豊曉な書をものした著者にははなはだ失礼かとは思うが、本書中にひかれた一説を“孫引き”させてもらおう。 ――胸のあたりから腹にかけての拡がりが、脳裏に浮かび上がってくる。白くなめらかなその部分は、興奮すると薄桃色に染まり、腫れ上がった静脈の枝が青い模様を描き出している。……噎せるほどの女のにおいを放つ、薄桃色の拡がりである。それは、荒々しい男の力を招き寄せないで済む筈がない。―吉行淳之介『技巧的生活』から 接吻を重ねるうちに、微妙に息に香りが混じりはじめる。「あー求められている」。そう思うと、嬉しいような、愛おしいような。思わずギューッと抱きしめたくなる。――そんな、経験がある。上記の引用文を読んで、決して勘違いじゃなかったと、何度もうなずいた。興奮した時、警戒する時、人もまた独特の匂いを放つものらしい。野生の生き物たちと同じように。 だがもちろん、そんなことは人には言わない。鼻がいいというのは、より本能に従順、より野生に近いのかもしれないと思っているから。命の根源にふれる香、匂い。その豊饒さよ。溢れ返る情報と知ったかぶりに毒された“無臭”の現代にあっては、得がたい能力なんだと思う。 ふだん無臭な人の肌、それがほのかに匂う----。そんなときが嬉しい。 あちゃ、すっかり本書の紹介を忘れてる! 内容がないわけじゃない。先述のとおり、4度も読み返す本は、そうはない。内容がありすぎて、何を紹介していいのやら。 ちなみに第一章は「自然の香りあれこれ」。害虫がつくと独特の臭いを発して虫を威嚇し、近隣の樹木に注意信号を送る話は、目からウロコもの。植物は匂いで会話をしているのだ。 第二章は「天然香料を求めて」、第三章は「香を焚く」、第四章は「香りで癒す」―かのアロマテラピーのいろいろ。ついつい、やってみようかなぁ?と思ってしまった。 第五章は「香りを創造する」、第六章「嗅覚の不思議」。 第七章「からだのにおい」、第八章「香りの文化と歴史」、第九章「香りの言葉」となっている。 男性の匂いは、女性の性ホルモン分泌を促すという。また、受胎期の女性は一番匂いが強いなど、人間もまた匂いで信号を発信しているのがわかる。 と、人間の話ばかりでなく、クレオパトラや楊貴妃にさかのぼった体臭、香料の話、そして薔薇やラベンダーなど植物の香り、ムスクなど動物性の香料の話と、鼻のいい人、香りの興味のある人には実に興味の尽きない一書。あー、内容をまとめあげる力のない自分がうらめしい……と、きょうもほろよいの中で、唸るのでありました。中村さん、ごめんなさい。興味のある人、入手して読んで。
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