00.07.16.


高度41,000フィート
燃料ゼロ!
 
ウイリアム・ホッファー、マリリン・ホッファー 著
松田 銑 訳


発行:新潮社
(新潮文庫)

平成2年12月20日発行
平成3年10月15日5刷



定価:480円

とても実話とは、思えなかった。1983年7月23日、エアカナダのボーイング767が上空で燃料切れ! そして、生還。人間って愚かで、素晴らしい

 我が愛車フォード・レーザーは、とても外車などとは呼べぬファミリーカーで、同系列のマツダ・ファミリアとは“瓜二つ”。どちらもシルバー色がよく売れたよう(…に思える)で、信号待ちなどで隣に並ぶと、性能もスタイルもさほど変わらぬ外国車に飛びついてしまった(だってジャスコで売ってて、安かったんだもの)己の浅薄さを責められるようで、ついつい面を伏せてしまう。

 この車、買った当初からルームミラー型のスピード取締りレーダー感知機などという優れものが装備してあった(東名、阪神高速で重宝します)反面、国産車にあってレーザーにはないものがある。何だと思います? 答えは、燃料切れ警告ランプ。これまでに乗った車にはみんな付いてて、「ぼちぼち燃料入れなきゃな」とか、「スタンド探そうかな」などと思いつつ走っていて、ポッと灯ると「ハイッ限界!」と、何はともあれGSを探したりしたもの。

 ところが、レーザーにはない。もちろん燃料計はついているから、満タンにしてF、ちりちりと下がって針先がEエンプティを指したら、入れればいい。でも、何だかんだとやるうちに、うっかりすっかり忘れていたりして、ふと見ると針先がEの下! ガス欠寸前、エライこっちゃ! と、フンッ…って、何でエンプティランプがつかへんのぉ! などと思って、八つ当たり気味に探してみたら、…ないっ! 始めっから付いてない! 「燃料計があるんだから、自分で判断しろ」との大人の国の常識なのか、ランプなどつけようというのは国産車だけの“過保護”なのか、素人の私にはわからない。けれど、ランプがない御蔭で、給油するタイミングが以前よりちょっと早くなったのは確かだと思う。

 ところで、車ならまぁ、ガス欠でも路肩に停まってJAFにSOSという手がある。高速道路だと高機隊に大目玉くらって切符切られるのは必定だけれど、まぁ、あまり命にかかわる事は少ない。じゃぁ、船ならどうだろうか。船のガス欠というのもあまり聞かないが、外洋でそんな事態に遭遇したら、かなり深刻。天候次第では命にかかわる。しかし、即沈没というわけではないから、漂いながら、救援を待つことになるのだろうか。

 これが飛行機となるとどうか。常識的に、飛行機はエンジンが廻り、前に向かって進んでいる限りにおいて、浮いていられる。エンジンが止まって推力が失われたら、翼に風を送る手はなく、揚力が失われ、後は地球の引力の命ずるまま、大地に向かってまっさかさまに落ちるしかない。

 だから、飛行機にガス欠など起こるはずがない。まして、数百人が乗ろうかという現代の旅客機。機体だけで100億! 万が一の場合の保障など考えたら、天文学的損失になる。加えて、現代の航空機はハイテクの塊。パイロットはコンピュータの監視をしたまま、離着陸も含めて飛行機任せが可能なほど進化している。私のレーザーにはガス欠警告灯がないけれど、ハイテク巨大旅客機がガス欠という事態になるわけがない―と常識ではそうなる。

 その“常識”がひっくり返る事態の発生から、結末までを追った渾身のドキュメントが本書である(あー、前置きが長い)。 ボーイング767は、モデルによる多少の違いがある(本書のエアカナダ機がどのタイプか分からないが)、諸元表を見れば、だいたい全幅が50m前後、前長が50〜60m、座席数は300前後という大きさ。エアバスなら300と、ほぼ同規模だ。

 ボーイングファミリーの中では、B747ジャンボ、B777に次ぐ巨人双発機で、700機以上が世界の空を飛んでいるという“売れっ子”の一人。日本でもJALやANAなどで多くの機材が飛んでいるkら、空の旅をしたことのある人なら一度は空港で目にしたり、あるは乗ったことがあるかもしれない。座席は横にAからKの11列程度だったと記憶している。

 この機は777が登場するまでは、ボーイングファミリーの中でも最もハイテク化の進んだ旅客機でもあった。そのハイテク・ジャンボ・ジェット機のコンピューターが、飛行中に作動しなくなる! 主翼いっぱいに入っているはずのジェット燃料が、空に! 誰もが夢想だにしないそんな事態が現実に起こったら、わたしはどうするだろう。泣き叫ぶのだろうか。それとも…。

 つい1週間ほど前、サミット警備も厳しくなった沖縄・那覇空港からJALの767に乗ったとき、ふと、この本のことを思い出した。日曜日、まだ台湾あたりにあるはずの台風4号の影響で、那覇は朝から風雨。雨のおかげで予定の仕事がキャンセルになり、ぐずぐずしていた私も、石垣など南西方面への便が次々と欠航になるのを見て、あわててチェックインカウンターに向かったのだった。


 本書の原題は「41,000Feet and Out of Fuel  FREEFALL“自由落下”
――カナダ国営航空会社エアカナダのボーイング767型機が1983年7月23日現地時間午後8時9分、オンタリオ州レッドレーク上空、高度4万1000フィートのところを飛行中に起きた事故。ロバート・ピアソン機長の操縦でモントリオールからオタワ経由エドモントンに向けてそこまで順調に飛行を続けてきた同機の警報装置が突然に燃料切れの警告を発し、間もなく両エンジンが停止、コンピューターも作動不能となり、停電のために機内は暗黒に化した。そして61名の乗客と8名の乗員を乗せたハイテク・ジャンボ・ジェット機はグライダーよろしくただ滑空効果をつづける外はなくなった―

――本書の著者ホッファー夫妻はこの奇妙な事故に注目し、数年間にわたる広汎な取材調査の結果、その警報以後29分間の戦慄、恐怖の一瞬、一瞬をまざまざと再現し、事故原因の核心を抉り出すことに成功した。

――あらゆる航空機事故がそうであるように、このボーイング767の事故も多数の複合的な原因の結果だが、カナダにおけるヤード・ポンド法からメートル法への切り替えがパイロットとメカニックの燃料計算を狂わせたのもその一因

――コンピュータ化された航空機の安全性は、在来機に比べて飛躍的に向上したと言われるが、肝心要のコンピュータに故障が起きた時にもそう言えるのだろうか。この本はそれに対する一つの回答を提供しているようだ。――以上、本書「訳者のことば」より

 IT革命が喧伝されている。その情報技術―コンピュータの威力が、最大限に発揮されている一つが現代の航空機である。本書は航空機とコンピュータ、コンピュータと人、パイロットという職業、飛行機が飛ぶしくみ、危機管理などなど、実にさまざまなことを考えさせてくれた。

 と同時に、読み物としても、実に興味深い。本書288pと289pとの間には、「ギムリー基地(使われなくなり、レース場となっていた飛行場)に緊急着陸(つまり不時着)した直後のボーイング767、エア・カナダ143便―写真提供WWP」のキャプションがついた1枚の写真が付され、おじぎをするように、ノーズ下(アゴかな?)を大地にこすりつけている767の姿が、本書に盛られた内容が「実話」であることを強烈に思い起こさせてくれた

Presented by Takafumi-labo
since 2000.01.20. (C)All Copyright Takafumi-labo.
horoyoi@tenri-iexpress.com