00.03.19.



 糖尿病 こころのケア

糖尿病を愛することなんて、
もちろんできないけれど


石井 均 監訳


発行:医歯薬出版株式会社

1999年5月10日
第1版第1刷発行

定価:2,400円+税

心・身を診る。そんな当たり前のことに、あらためて気づく----。そんな本が出た。糖尿病への取り組みに、新しい光が射し始めた

――糖尿病を治療していくとき、いろんな感情に出会います。「なぜ私だけが」という怒りや恨み、合併症や低血糖への恐怖、「誰もわかってくれない」という孤独感、「何もかもいや」というゆううつ、血糖コントロールがうまくいかないときのイライラ、そして糖尿病やそれ以外の日常的なストレスなどです。また、糖尿病をもつ人たちを支える人たちも、どのように力になればいいのかと悩むことがあります。
――このようなこころの問題を処理していくことはとても大切なことです。糖尿病をもった人たち、およびその周囲の人たちが、いきいきとした充実した人生を送るためには、たいへん重要なことなのです。この本は、そのための方法を集めています。第一部は糖尿病をもつ人たちに、第二部はその人たちを支える家族の人たちに向けて書かれています。だから、この本は、糖尿病をもつ人、その人を援助する夫や妻、両親、祖父母の方々や、すべての医療関係者に読んでいただきたいのです。
----本書「監訳のことば」から

 本書は米国糖尿病学会で刊行されたTEXTを、翻訳したもの。だから、医療制度や生活習慣など、一部、日本人患者にはそぐわないものもある。しかし、それを補ってあまりある、示唆に富む内容が満ちている。
 翻訳にあたったのは、天理よろづ相談所病院「憩の家」の石井均・内分泌内科部長兼糖尿病センター部長を中心とするグループ。 もちろん、ただ翻訳したというのではない。石井部長を中心とする「憩の家」の糖尿病外来・教育入院では、かなり以前から本書に盛られた内容を実践。日本の生活習慣・社会にあったものにリメイクする試みが進められ、かなりの成果をあげている。

 その成果の上に、その元となった“本場”のTEXTを翻訳することになったのだ。
 石井部長は、糖尿病治療を学ぶために米国に渡り、そこで展開されていた、身体だけでなく“こころ”に重点をおいた治療に目を開かされたという。
  人は身体だけで生きているのではない、その人ならではの「こころ」があって、こころが身体を動かし、使い、生活している----そんな当たり前のことを、当たり前にとらえて患者を中心とした治療が進められていたのだ。

 帰国後さっそく、石井部長は“こころのケア”に取り組み始めた。だが、大病院に多数の患者が集まる現状では、3時間待ちの3分診療といった状況は全国の高機能病院に共通。しかも、カウンセリングを含む治療は、時間がかかり、いまの医療保健制度では、なかなかペイしにくい。

 そんな中で、石井部長の取り組みを可能にしたのは、宗教を基盤に置き、心と体、さらには生活者としての病人そのものを診ようという「憩の家」だったから---と石井部長は言う。彼自身は信仰者ではないというが、その物腰、視点、ことば使いの端々に、人に寄せる慈しみがにじみ出ているように思う。男女をとわず、石井部長を指名して来院する“ファン”が少なくないというのも、わかるような気がする。

 いま、インターネット上で、「糖尿病」をめぐる学会や研修会のプログラムを検索すると、石井部長や「憩の家」のスタッフたちの名前に出会うことが少なくない。病を治すことのみに急だった我が国の医療界でも、病だけでなく病人そのものを見つめ、こころを見つめ、暮らし振りに思いを届かせた医療が始まろうとしているようだ。

 そして本書は、糖尿病だけでなく、腎臓病や肝臓病、高血圧など、さまざまな病で生活に制限がかかっている人とその家族にも、大きな示唆を与えてくれる。一読を薦めたい。

 最後にあらためて、石井部長らの先進的な取り組みに感謝し、敬意を表したいと思う。

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