00.01.19.



日本宗教のすべて

[混淆し習合する神と仏と人]を探究する!

瓜生 中・渋谷申博 著


発行:日本文芸社

平成8年8月30日
第1刷発行

定価:1,300円
こんな本1冊で、一つの宗教、宗派すら分かるはずもない。
けれど、“無宗教”と言って言われて不思議に思わなくなったら、一度読んでみてほしいなぁ。日本にも、こんなに豊かな宗教的土壌があるんだ

 身体について何も考えずに生きていられるなら、それは貴方がいま健康だからだ。―といった内容の箴言を読んだことがある。確かに、人は病を得て初めて、普段なに不自由なく使っている身体の有り難味に気づくだろう(中には、それをしも当たり前と言う人もいようが)。
 そして、一命にもかかわる事故や病に遭った時、死や死後、あるいは生命、人生、生きる意味、神といったことに思いが及ぶのかもしれない。
 私自身は、確かにそうだった。横着で、わずかな知恵や知識を頼みがちな自分自身を振り返れば、青年の日に病を得なければ、信仰などということは思いもよらないものだったかもしれない。

 この冬、人並みにインフルエンザに罹った。幸い消化器系は異常なく、嘔吐などもなく、症状はもっぱら発熱と咳、倦怠感。38度を超える熱は、およそ15年ぶりで、久々に床に就いた(それも4日間も! 同僚には迷惑をかけてしまった……)。
 だが、解熱剤と鎮咳剤を服用してしばらくすると、結構楽になる。横になってばかりでは腰も痛いので、のこのこと起き出して本棚をあさった。そこで、ふと手にしたのが、この本。オウム真理教がアレフに改称するとか何とか、昼のTVニュースでやっていたのが心にかかっていたせいかもしれない。

 本書はいわば“日本宗教史概説”“日本宗教総覧”といったもの。神道、仏教、キリスト教、新宗教と大きく4つに分けて、古代から現代までの主な宗教家や教団、運動などを網羅している。
 こう紹介すると、無味乾燥なイメージを受けるかもしれないが、これが結構おもしろい。それは、一つの問題意識が全編を貫いているからではないかと思う。

 本書のプロローグで著者はこう記している。
日本人は無宗教の民族だといわれている。たしかに、「あなたの信仰している宗教は?」と問われて、即座に、明確に、あるいは胸を張って答えられる日本人は少ないはずだ。
―しかし、これは日本には宗教がないからではない。そのような国家は存在しないだろう。
―むしろ、日本には宗教が溢れ返り、人生の節目・節目には宗教的儀式を執り行ない、日常生活においても、宗教との関わりは決して少なくない。
―にもかかわらず、日本が無宗教国家だといわれるのはなぜか?
―日本の宗教的土壌を探る。

 解熱剤のお陰で、発熱の合間を縫って読了して思ったのは、「日本人っておもしろなー」ということ。道教、儒教、仏教と、宗教でさえも、この国の風土に合わせて、作り変えてしまったのだという点(もっとも、戦後に“輸入”した学問・技術は、翻訳しようともしない……との指摘もあるが)。
 それから、わが国の宗教的土壌を痩せさせ、心の荒廃を招いたのは、日本人は無宗教だと批判する当の米国(GHQ)であり、それを結果的に後押ししたのが戦時中に神国の美談を掲載し続けていたマスコミであり、いわゆる進歩的知識人であり、教育者たちであったろうということ(もちろん、戦後も素晴らしい宗教教育をしてきた私学はあるが……)。

 そう思って振り返れば、つい身近にも、“文化財”となった宗教には言及しても、生きた宗教はあたかも存在しないかのように振舞う“えせ文化人”が跋扈している。宗教とうまく距離がとれず、マスコミの掲げる錦の御旗の前に、腰がひけてしまうのかもしれないが…。同時に、諸外国と比べ、一段低く見られてしまう宗教や宗教人の側にも、問題やアピール不足があるのだろう。

 しかし、日本人すべてが信仰心を失ったわけではないだろうと思う。不況と激変する社会構造…、先の見えない時代の中で若者たちの間にも、確かな人生の指針を求めたいとの思いが広がりつつあるように見える。それは、激しく揺さぶられている中高年たちも例外ではないだろう。近年流行っている「癒し」という言葉や、根強い占いブーム、初詣に出向く姿を見て、そう思う。
  いまこそ、「無宗教」返上といきたいところだが、そうした現代人に伝統ある宗教教団が、必ずしも魅力あるものとは映っていないだろうとも思える。そうした 隙間を突き、こころ満たされぬ宗教的浮遊層をうまうすくい取ったのが、オウム真理教でありライフ……といった、いま問題とされるカルトだったのではないか。

 熱に疲れた目でページを追い、豊かに躍動する我が国の先人たちの宗教を巡る足取りをなぞりながら、そんなことを思っていた。宗教は、現代人の心をとらえられるか…。そのヒントになるものが、その中に幾つかあったように思う。折をみて、もっとハッキリした頭で再々読したい一書。
 

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