| 00.01.28. | ||
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美しい人とすれ違ったとき、無意識に“残り香”を嗅いでいることがある。 |
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アフリカとの最初の出会いは臭いだった。もう10年も前の事。仕事でヨーロッパの諸都市を巡り、オランダ航空のジャンボジェットでケニアのナイロビに降り立ったのは、6月初めの真夜中だった。ボーディングブリッジなどという気の利いた物はなく、ドア口に立って見下ろすタラップはとてつもなく長く見えた。 匂いは感情に直結する 感覚なんだと、私は思う。意識する前に、考える前に、感情というか気分というか、心を動かす…。潮の香やご飯の炊ける匂いは、郷愁を覚えさせる。愛しい人の胸の匂いや髪の香は、切なく、甘酸っぱく心を揺する。 生まれた河の匂いをその細胞の奥深くに刻んでいて、次なる生命を生み出し自らの命を屠るために、違えずに帰ってくる鮭たち。異性の出す求愛の香に、数キロ離れた地点で感応し、まっしぐらに飛んでくるけなげな虫たち。そうした生き物たちの姿を知るとき、匂いという感覚は、生命そのものに直結しているのではないかとすら、思えてくる。 しかし、これほど不確かで、確かな感覚もないと、いまさらに思う。視覚は物に反射してくる電磁波をとらえ、聴覚は音源から出てくる音波をとらえる。いずれも、物理的刺激を受信しているから、その質や強弱を測ることができる。人は、光や音をカメラやマイクを通して物理的な媒体に記録したり、電子機器や顕微鏡などで増幅したり、伝達したりしている。 しかし、匂いを何かに記し留めておくことはできない。確かに、臭いを測定する器具はあり、成分の濃度として数字を記録することはできよう。あるいは、硝子びんか何かに詰めておくか…。しかし、そうする人は少ない。人は匂いを、それぞれの記憶に留める。無意識のうちに、刻んでいる。そう思うと、意識して覚えておきたい、刻んでおきたい匂いが、いっぱいあると思えてくる。遠い将来のいつか、自らの“こころの扉”“記憶の扉”を開くときに、keyとなる香。それをいま、二度と来ないその時々に刻んでおきたいと思う。精一杯に“嗅いでおきたい”と、そう思う。 本書はタイトルどおり、この不思議な感覚匂いにとことんこだわった一冊。匂いとは何かから、文学や映画、歴史、異文化における匂い、動物、きき酒、ハーブや花、香水、薫香…と、とにかく匂いにかかわるエピソードが盛られていて、興味深い。 中で特に印象に残ったのが「匂い」という言葉そのもの。「香り」に対し、「匂い」は「臭い」と同じように負のイメージを抱いているとばかり、私は思い込んでいた。ところが、著者は歌人の言をひいてこう記す。 この鮮やかな紅といった色覚に関する美詞が、転じて香りを表す言葉となったという。 一方、相当な臭気でもすぐに鼻が慣れて感じなくなってしまうということがある。確かに匂っているはずなのに、匂わない、匂いの不思議。自分では分からない臭いもある。 臭いといえば、中年の臭いの原因が報じられ、その臭いを消すグッズも近年発売された。 |
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